Kjaerlund Concept

 

 

  2018年初秋、"北欧家具"に魅せられた職人達により札幌にてKjaerlund(ケアルンド)は立ち上げられました。

  2000年代にインテリアの一つの大きなテーマとして定着した"北欧家具"の中でも、特に1950~1960年代のデンマークにおけるインテリアデザインのムーブメントは、インテリア史に於いて極めてインパクトの強いものであり、イメージされる"北欧家具"に囲まれたオシャレな空間の大半が、この時代の作品達と直接/間接的な関連性を持つと言って過言ではありません。

  Kjaerlundでは毎月北欧各国へ実際に出向き、これらの絶版となった家具の買い付け、日本国内に到着後は当アトリエの職人によるリペアワークにより、1点づつ大切な作品として完成します。また各々の作品を長らくお楽しみ頂くべく、背景のストーリーやアイデアなどと共に皆様の空間造りのお役に立てるようなコレクションとしてご紹介致します。

 

 

  • 札幌? 〜 北欧家具を構築する3大木材

 

 我々は、デザインはもちろんの事、起因する土地(ロケーション)についても長い時間をかけて考察を行なって来ました。例えば、デンマークのコペンハーゲンは実に年間の半分程は気温が10℃を超えず、おのずと人々は室内で過ごす時間が多くなり、インテリアを充実させようと考えるのは自然です。白夜や極夜の存在する、北欧各国ならではデザイナー達の”光”に対しての造詣の深さも同じような理由からでしょう。

 

 日本には、”北欧家具”に所縁ある土地がいくつも存在しますが、北欧らしい気候や、近郊に家具作りの世界レベルのシーンが存在する事などを理由に我々は、活動の拠点として札幌市を選びました。

 

 

 例えば、いかにも北欧のイメージに沿った肌色の木材があります。この木材は、Oak/オーク(楢・ナラ)と呼ばれ、ヨーロッパオークは北欧を含むヨーロッパ全土に原生し、当時の家具製造に多く用いられました。

 一方、北海道の天塩川流域のミズナラは当時より非常に良質であったことから、「道産の楢」ないしは輸出港の小樽にちなみ「オタルオーク」と呼ばれデンマークを始めとしてヨーロッパ各国に輸出され同様に加工されました。 

 

 

 もしかすると、60年以上経った今デンマークから買い付け、札幌まで運ばれたオーク製の家具のルーツが....と考えるとロマンは深まる一方です。(オーク製の家具の代表例はHans J WegnerのデザインしたGE290などです。)     

 

   特に、デンマークやノルウェーのミッドセンチュリー期(1950~1960年代)にデザインされた家具に多様されているのが、Teak/チークという薄茶色の木材です。タイ、ミャンマーなど東南〜南アジアに広く分布しますが、残念ながら現在では天然のチークは枯渇してしまいそのほとんどの地域で天然のチークの伐採・輸出が禁止されています。

 チークは木材の特性として耐久性・耐水性に富む他、虫食いにも強く、当時の造船過程において欠かせない木材でした。海運業の中心と言うべきデンマークでは、1800年代よりタイと国家同士で密な関係性を築いており、国内には良質なチークが溢れておりそれらが当時の家具デザイナー達に採用、重宝されたという訳です。

 

 現在では入手が非常に困難な天然のチークがふんだんに使われた北欧家具は、その上品な木目によってインテリアを彩るのみではなく、歴史的価値も非常に高いのです。(例えばHenning Kjærnulfはこの木材を非常に好み多くのダイニングテーブルなどに採用しました。)

 

 最後にご紹介するのが、Rosewood/ローズウッドという褐色の木材です。リペア時など研磨した時にその名の通りバラの匂いに包まれます。人々を虜にし続けるそのエキゾチックかつ繊細な木目は、作品ごとに表情も異なり機能的な家具という本質を超え、もはやアートの領域です。

 King of Woodsとも言うべきこの木材は、特に数多く分布するブラジルの発展と共に伐採が進み絶滅に瀕したことで、1992年にワシントン条約にて流通が大幅に制限され(VU=「野生絶滅の高い危険性」)今では新たなプロダクションとして使用されることは、極めて困難になりました。

 

 ミッドセンチュリー期の特に高級なデザインには、厳選されたローズウッドが、天板から細部の意匠にまで宝石のように輝きをちりばめます。(プロポーションの素晴らしいKai Kristiansenの"Z Stool"などに採用され別格の装いとなります。)

 

これら、オーク・チーク・ローズウッドの三種が、北欧家具の歴史において最も華やかなミッドセンチュリー期における三大木材です。それぞれが異なったフレーバーを持つため、統一、もしくは組み合わせによる空間演出のバリエーションは無限大となります。

 

 

  • デザイナーもの or UNKNOWN

 

 

 ひとえに北欧家具と言っても、その種類は多岐に及びます。当店ではシーンの中心であるデンマークを中心とした品揃えになっていますが、隣国のスウェーデン、ノルウェー、フィンランドにも素晴らしい作品が多く存在します。それぞれの国のデザインには独自の個性があり、そのイメージを決定付けたのは各国の有名な家具デザイナー達なのです。

 デンマークのデザイナーを例にすると、写真の中の、Poul Henningsen(ポール・ヘニングセン)のデザインした照明 "PH5" や、Arne Jacobsen(アルネ・ヤコブセン)のデザインした椅子 "セブンチェア" などは、各国のカフェや空港、大使館等あらゆる場所に採用されているので、ご存知の方も多いかと思います。

 他方、このように世界中で解説書のあるような"デザイナーもの"とは異なり、誰が設計・製造したかは定かではないものを、現地では"UNKNOWN"(アンノウン)と呼びます。ミッドセンチュリー期には、毎年家具のコンペティションが行われ、あらゆる人々が切磋琢磨し、デザインや製造に励みました。故に、"UNKNOWN"と言っても素晴らしい作品が数多く、そういったものを可能な限り正確な情報でご紹介するのが、Kjaerlundの一つの大きな役目だと考えています。

 "デザイナーもの"と"UNKNOWN"をどのように組み合わせて空間をコーディネートするかが、まさに腕の見せ所なのです。

 

  • リフィニッシュへの拘り

 

前述の通り、特にミッドセンチュリー期には素晴らしい家具が生み出され、それは言葉を変えれば、良質な素材と類い稀なるクラフトマンシップのシナジーだったように...

 当時から60年以上経過した今、北欧各国への買い付けは非常にユニークなものであり、ある作品はオークションハウスと呼ばれる競市にて、また違う作品は世界中のディーラーに向けた卸売専門のショップにて、もしくは実際に個人宅に伺い、お譲り頂くことも良くあります。(北欧では、良質な家具を何代にも渡り大切に使い続ける文化があります。) つまりは、我々が実際の作品を初めて目にした段階では、そのコンディションはまちまちで、まるでミュージアムから出てきたような完璧な状態のものから、長年のデイリーユースにより表面の摩耗したもの、度重なる引越しにより角の欠けたもの、と言った具合です。

 このように時や海を越えて我々の工房に運ばれた作品達は、コンディションに対して、それぞれの個性を可能な限り引き出す形でKjaerlundによりリフィニッシュされます。基本的には、 当時生み出された時の状態をイメージしながら、長年の汚れや傷を丁寧に除去し、メインテナンスします。その過程でなるべく北欧の素材を使用することも一つの拘りです、開閉式の金具や、足につけるフェルトの滑り止めなど...

 

 もしくは、家具作りの基本であるネジもです。1935年にアメリカのフィリップ氏によりプラスネジが考案されますが、まだまだ世界的には浸透していなかったミッドセンチュリー期の北欧家具の大半は、真鍮製のマイナスネジが用いられています。現代では日本国内ではこれを入手するのは難しく、プラスネジに変えてメインテナンスしがちですが、Kjaerlundでは各種サイズをデンマークより大量に仕入れストックしています。確かに小さな部品達ではあるのですが、やはりこれ以上ない完璧な調和を見せます。

 最終フィニッシュに用いられるオイルやワックスですがKjaerlundでは、北欧各国のものはもちろんのこと、実は日本にKjaerlundのコンセプトに一番沿ったものが存在することを発見しました。これらは天然素材100%のものか、微量の化学製品とのハイブリッドです。その全てがホルムアルデヒドに関する安全基準の最高値F☆☆を達成しておりますので、安心してご利用頂けます。それぞれは作品の持つ個性に合わせてフィニッシュ方法が選択され、元来の素材感に影響することなく、耐久性や撥水性といった現代らしい機能を備え、皆様の日々のメインテナンスを容易なものとします。

 このように、Kjaerlundでは作品元来の輝きや個性を取り戻しながら、現代的な機能性を付加することに留意しています。いくらいい食材を使っても調理するシェフに、強い意志やパッションがなければ人々を感動させる事ができないのと同様に...

 

  • 家具との付き合い方

 

 Kjaerlundから旅立ち、無事に皆様のもとへ納品された後も我々はその貴重な作品の一点一点を思い返します。

 元来、正しいメインテナンスを繰り返していけば何十年も使い続ける事ができるような家具故に、例えばテーブルに出来た輪染みや、少しへたり気味の椅子のクッション等、即座にKjaerlund工房で再度メインテナンス致します。

 また北欧家具といえば、多種多様の美しいファブリックを基調としたデザインも大きな特徴の一つですが、皆様の空間造りのアイデアが変化するにつれファブリックを変更されたいこともあると思います。(もちろん経年劣化の際も) Kjaerlundではデンマークの老舗Kvadrat社のファブリックを推奨していますが、それ以外ご指定の素材でも張り替え致しますので是非ご相談下さい。

 

 

 

 後記

  わび・さびを重んじた"和モダン"の日本のデザインアイデアは、洗練された北欧家具のミニマリズムと融合し、"Japandi" = "Japanese" + "Scandinavia"という新たなスタイルを昨今、欧州にて生み出しました。それは、ミッドセンチュリー期、多くの有名デザイナー達が日本の文化や芸術にインスピレーションを求めた事と同様です。

   国民の幸福度の高さが世界屈指の北欧の国々には、もちろんライフスタイルのヒントが多く隠されており、新たなに取り入れたい要素もたくさんあります、しかしながらそれ以上に9000kmも離れているのに、どことなく親しみ深く、初めて出会った様には思えない北欧家具の数々を、是非皆様にも味わって頂けたらと思います。

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